問題解決の正しい手順:WHERE・WHY・HOWモデルによるアプローチ

問題解決の流れ

あなたが友人から、「体調が悪いんだけど、どうしたらいい?」と相談されたら、どう答えるか。  

この問いに対する回答は、大きく四つに分類される。

(1)問題解決につながらない回答

まずは、「大丈夫?」「大変だね」「そうなんだ」「つらいね」など、相手を気遣ったり同情したりする回答である。

これらは人間関係を円滑にするという意味で非常に重要だが、残念ながら問題解決にはつながらない。

「大丈夫?」「大変だね」と返しても、あなたの友人の体調の悪さを改善する方法は見えてこないだろう。

日常のコミュニケーションとしては大切な回答だが、問題解決という観点ではあまり役には立たない。

(2)HOW──対策をアドバイスする回答

次に、「医者にいったら」「薬を飲んだらいいよ」「少し寝なさい」などの回答が考えられる。

これらは、友人に対して具体的な行動、すなわち対策を提案している。

私たちはこれを「どのようにするか」という意味で「HOW」と呼んでいる。

一見、これらの対策を実行すれば友人の体調はよくなりそうに思えるが、本当だろうか。

その対策は本当に必要なのだろうか。

(3)WHY──原因を探る回答

たとえば、寝不足であれば、薬を飲んでも体調はよくならないだろう。

二日酔いであれば、医者に行かなくても治るだろう。

つまり「HOW」を考えるまえに、「なぜそうなったのか」という原因、

すなわち「WHY」を考えなければならない。

原因を探る回答としては、過去に関する問いかけ、

すなわち「夜は眠れている?」「昨日、飲み過ぎたんじゃないの?」などが考えられる。

なるほど「HOW」を考えるより先に「WHY」を考えることには意味がありそうだ。

とはいえ、いきなり「飲み過ぎたんじゃないか」といった具合に、「WHY」から考えてよいものだろうか。

(4)WHERE──問題の所在を特定する回答

もし友人が「背中が痛い」というなら、おそらく原因は飲み過ぎではないだろう。

ここで最後に出てくるのが、「どこが悪いの?」「頭が痛い?」「お腹が痛い?」といった回答(質問)だ。

これらは、問題はいまどこにあるのか、つまり「WHERE」を特定しようとしている回答である。

頭が痛いのであれば原因は二日酔いかもしれないし、お腹が痛いのであれば食べ過ぎかもしれない。

「WHERE」を特定することで、より的確な「WHY」を見いだし、「HOW」につなげようという発想の回答である。

問題解決は、ここから考えることが重要。

以上の流れを図1‐3にまとめてみよう。

問題解決の事例

(1)WHERE──問題を絞り込み、合意を取りつける

まず、どこが問題なのかを考え、問題を絞り込んで特定する必要がある。

漠然とした問題のままであれば、その問題を引き起こす原因も多数考えられ、それに対応する対策もさらに多数考えられるため、検討が膨大になってしまうからだ。

どこに問題があるのかを広く探り特定する考え方ということから「どこどこ分析」と呼ぶこともある。

問題は必ず最初に「絞り込む」ということを肝に銘じてほしい。

たとえば、あるカフェチェーン店で売上が下がっている問題に対して、検討は次のようになる。  

といった具合に絞り込んでいくのである。

「あちこちに問題があるのに、絞り込んでしまうと一部の問題解決にしかならないが、それでよいのか」という質問を受けることがある。

的を射た疑問だが、絞り込んでよい。

なぜなら「細分化した問題の着実な解決を何度も繰り返す」のが問題解決の定石だからだ。

くれぐれも「絞り込めていない漠然とした問題に漫然と立ち向かわない」ように注意してもらいたい。  

補足すると、自分一人の問題や、関係者の少ない問題など、「小さな問題」「すでに絞り込まれている問題」については、この手順を簡単に済ませることもある。

しかしこのような状況は稀で、ふつう、企業における問題解決には多数の関係者が存在し、さまざまな範囲に影響を及ぼしている問題が多いため、最初に問題を「絞り込む」ことは重要な手順であると覚えておこう。  

問題を絞り込んだあとは、「ここが問題だ」という合意をきちんと取りつけておくことも忘れてはならない。

企業の問題解決がうまく進まない理由として、「あとになってから〈私はそこが問題だと思っていなかった〉と話を差し戻されてしまった」というケースが多い。

問題認識がずれてしまえば、当然、原因や対策も認識がずれ、結果として問題解決が進まない。現在の問題を俯瞰的に見て、そのなかのどこが問題なのか、

どこを最優先に取り組むべきなのかをしっかり考えたうえで、問題を絞り込んだあとには必ず「合意を取りつけておく」ことを忘れてはならない。

(2)WHY──広く深く原因を掘り下げる  

次に、絞り込んだ問題がなぜ起きたのかを考える。「どこどこ分析」に対して、「なぜなぜ分析」と呼ぶものだ。たとえば、先ほどのカフェチェーン店の例で考えてみよう。  

というように深掘りしていくのである。  

WHYのポイントも詳細はあとで述べるが、ここでは「広く深く掘り下げる」ということを覚えておいていただきたい。  

トヨタ自動車には「なぜなぜ5回」という言葉があるが、「なぜ」を5回くらい繰り返して「深く」掘り下げることで、初めて根本原因が見えてくる。

特に「5」という数字にこだわっているわけではないが、「なぜ」を1回や2回考えただけでは、まだ表面的な原因しか見えてこないのだ。

物事の本質に迫るという意味を込めて「なぜなぜ5回」と表現しているようだ。  

また、「広く」いろいろな可能性を探ることも大切である。

WHYを検討するうえでありがちなのが「思い込みによる決めつけ」だ。WHYは原因、つまりは過去の話であることが多い。

そこで、確固たる証拠が残っていない場合、自分の思い込みで「これが原因だろう」と決めつけてしまうことがある。

先にHOW思考の落とし穴について触れたが、過去の勘と経験に基づいて「これが原因だ」と決めつけてしまうと、それまで論理的に考えてきたことが無意味になってしまう。

情報に基づき、広くさまざまな可能性を検討しながら、「本当の原因はなぜなのか?」を究明する姿勢が大切である。

(3)HOW──原因に対する効果的な策を打つ  

最後に、HOWを考える。  WHYで広く深く掘り下げて特定した原因に対して、それを解消するためのさまざまな対策を検討するのである。カフェチェーン店の例で見てみよう。  

といった具合である。  

ここで気をつけたいのは、「最後の最後でHOW思考」になってはいけないということだ。  たとえば、「首都圏のビジネスマンが来ていないなら、

女性アイドルを呼んでキャンペーンを張ろう」といった具合に、思いつきの対策に飛びついてしまうと、「それは、君がそのアイドルを好きなだけじゃないか」と誰も納得してくれない。

思いつきの対策を提示するだけでは、それが本当に問題の解決に有効かどうかわからないのだ。  

先の例で、原因は「(首都圏の30代男性が再来店したいと思うような)アイデアが出せない」であった。

したがって、その原因に対する対策を複数考えたうえで、最も効果が高く、費用が安く、時間的にも速くできるもの、などを優先的に選んでいく必要がある。

「最後の最後でHOW思考」というパターンは非常に多い。

最後に油断してしまうということもあるが、私たちは「HOW思考に陥りがちである」としっかり認識し、慎重に対策を考えることが大切である。

問題解決の6つの思考タイプ

(1)HOW思考

とにかく、対策案のアイデアが次から次へと出てくるタイプ。

問題の所在や原因などおかまいなし、あれをやればいい、これをやればいい。

とどんどん対策案が出てくる。

業種で言えばベンチャー企業や販売会社、広告代理店などに多い思考特性。

「なぜかという原因を考えようとしても前例がない」

「できる対策が決まっており、工夫できる範囲が限られている」

「人の気持ちなどを扱っており、原因を究明してもよくわからない」

「問題の所在も原因も、どう見ても自明」

といった場合には、「考えても仕方ない」「やってみないとわからない」「どうせこれしかできない」「さっさとやったほうが速い」といった風潮となり、HOW思考に陥りやすい。

たしかに仕事上、そういう性質のものもあるだろうが、すべてHOW思考で進めればよいというわけでもない。冷静にWHEREやWHYを振り返ることが重要である。

(2)コインの裏返し  

WHEREとHOWが強いタイプ、言い換えればWHYが抜けるタイプである。

たとえば、「カップル向け売上が減っているので、カップル向けキャンペーンをやろう」といった安直な発想である。

なぜカップル向けの売上が減っているのかという原因を深く考えず、「カップル向けの売上が減った」「キャンペーンをやれば売上が増えるだろう」と短絡的に考えてしまう。

表面的な問題をそのまま裏返して答えにしてしまうという意味で「コインの裏返し」と呼んでいる。

このタイプが多いのは、業種でいえば金融・商社。立場でいえば企画部門や管理者に多い思考特性である。

WHEREというのは「広く見る」能力であり、ここは身についている。しかし、現場に降りて深く原因を究明するという姿勢が希薄で、大きな対策方針だけを立てて「あとは現場でやってくれ」となってしまうのがこの思考特性である。

金融・商社の場合、投資判断などで広く見る目は養われているが、事業の詳細は事業会社側にお任せということが多いため、この思考になりがちだ。

企画部門、管理職についても同じで、全体を俯瞰する能力は高いが、現場の詳細はお任せで、方向性のみ指示するという動き方が身についている方が多い。

業務の性質上、こうした傾向になるのは仕方ないかもしれないが、WHYをしっかりと考え、HOW思考に陥らないように注意してもらいたい。

(3)原因決め打ち

WHEREを飛ばしていきなりWHYから入ってしまう思考タイプである。

つまり、問題が発生したときに、「まず原因は何か」から検討しはじめるタイプだ。

職種でいえばメーカーの技術者やシステムインテグレーターなど、立場で言えば若手社員、経理や人事といった専門系の機能組織に多く見られる思考形態である。

「自分の専門領域や担当範囲が定まっている」「過去の蓄積、過去からの改善によって業務が成り立っている」といった場合、自分の見ている狭い範囲で考えてしまう癖がついており、広く問題を見て絞り込むという手順を経ずにいきなり原因分析をしてしまう。

問題が小さいうちは、いきなりWHYから入ってもさほど外すこともないのだが、大きな問題を扱うようになると、せっかくWHYから検討しても「そもそも問題認識が違う」となりかねないので注意が必要だ。

(4)分析屋

WHERE、WHYが強いタイプ。逆にいえばHOWが弱いタイプである。どこで問題が起きていて、それがなぜ起きているのか、を調査分析するのには長けているが、いざ対策となるとアイデアも出ず、実行もうまくいかないタイプだ。

業種で多いのは官公庁職員、コンサルタント、金融機関など。立場でいえば企画部門に多い思考特性である。

時間切れで「HOWまで考えつかなかった」ならまだしも、「問題意識だけ提示して、あとはよろしく」という姿勢はあまりよろしくない。しかるべき情報を集め、発想を膨らませ、実効的なHOWまでを考えて提示していくことが必要である。

(5)ぶつ切り

WHERE、WHY、HOWをすべて考えているが、それぞれを別々に考えてしまっているため、WHEREで特定した問題にHOWが効かなかったり、せっかく考えた問題の発生原因とまったく関係のないHOWを提案してしまったりするタイプである。

「木を見て森を見ず」とでも言おうか、小さな論理に固執するあまり、全体の不整合に気づかない。これは業種や職種による特徴はあまり出ないが、やはり若手社員や技術系・経理系など専門性の高い組織に多い傾向がある。

問題解決を中途半端に学ぶと、この思考に陥りやすい。

つながりがないため、結局、問題が解消せず、せっかく学んだ問題解決アプローチを「使えない」と捨ててしまったりする。

本書でもこれから、「WHERE・WHY・HOW」の三つのステップを学んでいくが、決してぶつ切り思考にならないよう注意してほしい。

(6)問題解決思考

WHERE・WHY・HOWのすべてがしっかりとつながり、検討できている状態である。

あなたは、ぜひここを目指してほしい。  以上で六つのタイプを説明してきたが、

図1‐6にまとめたので、あなたはどのタイプか、参考にしてほしい。

苦手な部分は特に気をつけて学習し、弱点を補ってもらいたい。

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です